社会心理学から有名なお話をひとつ
援助行動
援助研究のきっかけとなったのは1964年3月13日アメリカのニューヨークで起きた殺人事件です。
以下は事件の概要です。
キティージェノヴィースさんは深夜の3時に帰宅しました。そして自分のマンションに入ろうとしたそのとき突然暴漢に襲われたのです。
彼女は「助けて〜」「たすけて〜」と助けを何度も求めました。彼女の悲鳴を聞いて近隣の住民が窓から顔をだし声をかけた時、暴漢はいったん手をひきました。しかし警察はきませんでした。またこの時、被害者に手をかす住民がいなかった為、暴漢は再び暴行をつづけました。そして彼女は約45分後に死亡してしまいました。
後にマスコミの調べでわかった驚くべくことはこの光景を多くの人達が見てたのに誰も知らん顔をしていたと言うことです。誰一人警察に通報することすらしませんでした。
その目撃者達の人数はなんと38人もいたそうです。しかしこれはアメリカに限ったことではなく、日本でも同じような事件が数多く報告されています。
当時の多くの新聞の論説委員やテレビの評論家は「私達の住む社会は冷たい。自分勝手で他の人が困っていても無関心で同情すら示さない」と論じたと言われています。
しかし、このもっともらしい説明を受け入れずに本格的にこの問題に取り組んだ社会心理学者達がいました。
そのうちの一つの実験にこんなものがあります。
その実験に参加したのはコロンビア大学の学生120名でした。
被験者がテストを行う建物に着くと、明るく女性の調査員が迎えてくれました。
その女性の案内で廊下を歩いてテスト室にむかいます。行く途中、被験者はテストを受ける部屋の隣の部屋
を自然にのぞいてしまいます。そこには研究装置や書類などが並べてあります。テスト室には数個のイスがあります。隣の部屋とはアコーディオンカーテンで仕切られていました。女性の調査員は「市場調査」の目的を
学生に告げて質問票をだし、回答を記入するようにいいます。被験者が記入をし始めると調査員は被験者に断り、アコーディオンカーテンを開けて隣室に移動し、カーテンを閉めます。しばらくするとアコーディオンカーテンで仕切られた隣の部屋からは調査員が動き回る音が聞こえます。次にイスに乗り、棚から物を取ろうとする音が聞こえます。と同時に、突然大きなイスが倒れた時の音が聞こえます。更に調査員の悲鳴が聞こえてきました。
実はこの実験、「市場調査」などではなく、「悲鳴を聞いた被験者が、いつ、どのような行動をとるのか」を知る為の実験でした。
実験の結果判明したのが、被験者が一人でいる場合には70%の人が何らかの援助行動をしました。しかし
被験者が2人になると急に援助行動をする被験者が減りました(40%)。更に実験に協力したサクラの人が
消極的態度をとった場合は、ほとんどの人が援助行動をしませんでした(7%)。
常識的に見れば、居合わせた人が多ければ多いほど援助行動をする人が増えそうですが、一人より二人、二人より三人と人数が増えれば逆に援助されにくくなってしまうという事実が判明しました。
ラタネとダリーはこの効果を「傍観者効果」と名づけました。
「傍観者効果」が起こる理由は大きく2つあります。一つは「モデリング」です。
「モデリング」とは、援助行動が必要な時に他の人々が「どのような行動をとるのか」、その時居合わせた他者の行動を指針にして自分も他者に合わせて行動をとってしまうという機制です。
もう一つが「責任の分散」です。援助行動が必要な時に一人ならばその責任は全て自分にかかってきます
(100%)。二人でいれば責任は半分ですみます。多数いればその責任は人数分で分割されて責任感が減少
していきます。このように援助行動が必要な時に居合せた人が多ければ多いほど責任の分散が働き、結局
「誰も助けなくなる」ということをラタネとダリーは明らかにしました。
キティージェノヴィース事件もここで述べた「モデリング」と「責任の分散」が働いたので「誰も助けない」
という結末をむかえたといえます。